「朝の来ない夜はない」 現在の為替相場を分析し今後の展開を考える
■08年の狂乱相場を振り返りながら・・・ はじめまして、AT FUND, Sydneyの津田 穣(ジョー・津田)です。本日から毎月2回程度、「世界の為替動向」を皆さんにお伝えしていきたいと思います。私は現在、在豪14年目になりますが、日本国内からとは一味違った相場の視点などお楽しみいただけたら幸いです。
毎回基本的に「相場のレビューやホットな市場の焦点」などをお伝えいたしますが、今回は初回でもあり、簡単に昨年来の狂乱相場を振り返ると共に、「現在の為替相場の位置付け」をしてみたいと思います。 それでは歴史的なメルクマールとなるであろう各時点での主要レートを振り返ってみましょう。
■かつて例をみないボラタイルな動きを見せた昨年 私も26年ばかり為替の世界に身を置いていますが、未曾有の金融危機・為替危機に見舞われた昨年1年の為替相場はかつて例を見ないボラタイルな動きとなりました。
世界経済は2007年8月の米国サブプライムローン表面化以降も昨年前半までは拡大を続けました。一方、それまで悪名高き米国の住宅ローン債券などの証券化商品をはじめとする米国金融資産に向かっていた投資マネーが米国を離れ、上表のように2007年8月以降ドル安が加速します。それら投機マネーは昨年夏に向けて原油・金などの実物資産、高金利通貨、アジアを中心とする新興国株式に向かい価格が急騰します。
昨年3月に金は1オンス1011.25ドル、原油も7月には1バレル147.27ドルの最高値を付け、商品先物インデックス(CRB)は7月に473.97の史上高値を付けます。さてその間の主要国通貨の動きを見てみましょう。
特徴は「昨年夏場までは米ドル離れと高金利通貨、欧州通貨高つまり米ドル安、円安が進行した局面。ドル円は軟調推移しますが対主要通貨の円クロスは上昇」と言えます。
その後昨年夏場以降から現在までの動きは、米国における金融不安の急激な悪化がクローズアップされ9月米証券リーマンブラザーズの経営破綻で市場のテンションは極限に達します。リスク回避の動きが急激に高まり今まで資金の受け皿になっていた高金利通貨、商品相場などリスクアセットから資金が一斉に流出。高金利通貨を含めたリスクアセットの価格は7月の史上高値から3ヶ月あまりでまさに「暴落」を演じます。
過去数年にわたり高金利通貨投資、新興国アセット投資のための低コストファンディング手法であった「円キャリートレード」の強烈な巻き戻しが世界的に起こり、米ドル円は100円を割って下落(安値は昨年12月と今年1月の87円台前半)。一方金融不安の欧州への広がりを懸念したユーロ、ポンドなど欧州通貨売りも活発化(ユーロの安値昨年12月1.23前半、ポンド安値今年1月1.35前半)しました。
米国企業・米系ヘッジファンドなどの海外リスク資産売却/本国への資金還流(リパトリ)の動きが激化し、加えて安全資産として米国国債への資金流入が強まり、サブプライムの震源地であるにもかかわらず為替市場では「米ドル高、円高」が進行しました。
年末にむけては度重なる国際会議や各国協調利下げ、各国中銀の市場への積極的な資金供給、各国の景気浮揚策などの施策が次々ととられ、主要国の景気は新年を迎えて更に悪化の一途をたどっているにもかかわらず、ここにきてやっと市場も幾分平静さを取り戻しつつあるのが実情です。
さて約2年間をざっと振り返りました。まとめますと「2003年以降の世界経済の順調な拡大を背景に世界的に潤沢な余剰資金が発生し。米国のサブプライム商品などへのレバレッジを効かせた投資手法で資産バブルが膨らんだ後、サブプライムに関連する世界金融不安が勃発。一気にバブルがはじけ、円キャリートレードを主体に積みあがってきたリスクポジションの強制的解除が行われた」というところです。
■現在の相場の位置づけと今後の展望 それでは現在の相場の位置づけを行ってみましょう。金融市場は最悪期に比べて落ち着きを取り戻しつつありますが、一方実体経済は少なくとも今年前半はさらに悪化するとの見方が一般的です。「朝の来ない夜はない」ようにいずれ朝はやってきます。
しかし昔から「夜明け前が一番暗い」、とか「夜明け前が一番冷える」とか言われるのも事実。市場の疑心暗鬼状態が続きます。景気に率直に反応する金利については今後も景気が後退する限り各国の金利も限りなくゼロに向かって収束していくでしょう。
なにせ世界No1とNo 2経済国家である日米がそろって「実質ゼロ金利政策」を取っているのですから。したがって、豪ドル、NZドルなどのオセアニア通貨や南アランドなど「かつての高金利通貨」と主要通貨との金利差縮小が続き、金利裁定の見地からは、かつての高金利通貨に対する売り圧力が今暫くは継続する見込みです。
そうなれば同時にリスク回避の動きからの円買い圧力も当面継続するでしょう。しかし繰り返しますが「朝の来ない夜はない」わけで、市場の悪い経済指標に対する免疫が出来つつあるのも事実でしょう。先週金曜日の非常に悪い1月の米雇用統計後のNYK DOWの急反発を見るに付け「BUY on fact」の調整買戻し以外にも「市場回復の息吹」を感じるのは私だけではないのでは?
今後は市場がどれだけ「景気の悪化を織り込み」、しかも、少しせっかちではありますが、どれだけ「景気回復の動きを先取りしていくか」が市場の焦点となっていくような気がします。
ただ、今回の金融・経済恐慌において世界中で数十兆ドルの資産価値が喪失したとみられます。またサブプライム問題を機に銀行の貸し出し基準やリスク管理が世界的に厳しくなっており、失われた資産規模は今後二度と戻らないであろうし、ハイリスク投資も元の水準には決して達しないであろうと思います。
著者情報
ジョー津田(ジョー ツダ) 本名は津田 穣(つだ みのる)。1978年東京銀行(現 東京三菱UFJ銀)入行。1982年、当時オイルマネーが潤沢であった中東のバーレーン支店において為替・資金ディーラーとしてスタート。ロンドン支店チーフディーラー、本店オプションチーフを務めた後、1990年に外資系銀行(米系、スイス系)に転出し、為替・資金業務に携わる。 1995年に来豪し第一勧業銀行(現 みずほコーポレート銀行)の為替ヘッドとして2007年まで活躍。顧客に的確な市場情報の提供/アドバイスを行い、豪州各地で講演会や市場説明会を実施して顧客の評価を得る。 2008年から知り合いの投資家の運営する AT FUND, Sydneyにファンドマネージャーとして参加し現在に至る。在豪10年以上の間に培った市場関係者との良好な関係を現在も維持し、日本の投資家に向けて市場メッセージを送り続けている。
2009年3月16日





