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外為マーケットコラム

欧州債務問題への解決へ向けて前進するか?

【ユーロはECBの対応策に左右される展開】
 スペインのバレンシア州などの地方政府が、中央政府に支援要請を検討するとの報道から、同国の財政問題への懸念が深刻となり、欧州債務危機への警戒感が高まりました。スペインの10年物国債の利回りは、「危険水域」と呼ばれる7%を突破した後も上昇が続いて、一時7.7%台まで上昇しました。

 20日のユーロ圏財務省会合ではスペインの銀行部門へ1,000億ユーロを支出する覚書に合意しました。ところが実際の支援額は9月に終了予定の個別銀行の資産査定が終わるまでは固まらないとのことです。さらに当初7月1日に発足予定だった欧州金融安定メカニズム(ESM)はドイツでの承認の遅れから、発足は9月にずれ込む見通しとなっています。欧州債務危機の克服へ向けて具体的な行動が見られないことで、ユーロ・ドルは軟調に推移してきました。

 そうした中、26日に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が「ユーロを守るためにECBはあらゆる手段を講じる用意がある」と述べたと報じられました。さらに、27日はドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領が電話会談を実施してユーロ圏を守るためにあらゆることを実施すると表明、加えて28日にドイツのメルケル首相とイタリアのモンティ首相が電話会談でユーロ圏を防衛するためにあらゆる措置をとると表明しています。

 これらの報道を受けて、市場のセンチメントが一変、ユーロが買い戻されるとともに、豪ドル、ポンドなども上昇して、ドルと円が売られることとなりました。さらに主要国の株価は大きく上昇しています。スペインやイタリアの国債利回りは急速に低下して、スペイン10年債利回りは7%を割り込んで、6.7%台まで低下しています。

 8月2日にECBの理事会が開催されます。2日の理事会では、南欧諸国の国債の買い入れや追加の長期の資金供給オペなどが対応策として検討されそうです。スペインやイタリアの国債利回りを下げるために、南欧国債の買い入れを表明するとの期待が高まっています。国債購入に難色を示しているドイツを説得して、こうした対策が打ち出せるかが注目されます。

 ユーロ・ドルは、ECBが前向きな手を打てば、債務危機への懸念が後退して、1ユーロ=1.24〜1.25ドルへ向けて上昇する動きとなりそうです。逆にECBの対策が不十分で、市場に失望感が広がるようなら、1ユーロ=1.20ドルへ向けて再び下落することとなるでしょう。

【米10年物国債の利回りは一時1.4%割れ】
 欧州債務問題の深刻化や低調な米経済指標を受けて、米10年物国債利回りは一時1.4%を割り込み、過去最低水準まで低下しました。米長期金利の低下はドル・円にとって圧迫要因となります。もっとも、リスク回避の局面では、円だけでなく、ドルも買われやすいことから、ドル・円の下値は堅く、日本の当局による円売り介入への警戒感もあって1ドル=77円台では下げ止まりを見せました。

 26日のドラギ総裁のコメントやその後の当局者の発言では、円とともにドルも売られたため、ドル・円は小動きとなっています。また、米10年物国債利回りは、リスク回避の動きが後退して1.5%台まで上昇しています。

 今後の主な経済指標としては、31日に日本6月雇用統計、豪6月住宅建設許可件数、独7月雇用統計、ユーロ圏7月消費者物価指数・速報値、ユーロ圏6月雇用統計、米6月個人所得・個人支出、米5月S&Pケースシラー住宅価格指数、米7月消費者信頼感指数、1日に米7月ADP雇用統計、米7月ISM製造業景況指数、米連邦公開市場委員会(FOMC)、2日に豪6月貿易収支・豪6月小売売上高、英中銀(BOE)政策金利、欧州中央銀行(ECB)政策金利、米新規失業保険申請件数、3日に米7月雇用統計、米7月ISM非製造業景況指数などがあります。

 欧州債務問題だけでなく、各国の景気減速が懸念されるため、米雇用統計をはじめとする経済指標にも左右されそうです。特に米雇用統計の非農業部門雇用者数は前月まで4カ月連続で予想を下回っており、この傾向が続くかが注目されます。次回も予想を下回るようだと、米国の景気の先行きに暗雲が広がり、量的緩和第3弾(QE3)への期待感が一気に高まりそうです。なお、市場では米連邦準備理事会(FRB)に対して、追加緩和の期待感が根強いものの、7月31日〜8月1日の次回のFOMCでは追加緩和の動きはないとみられます。

 英国では25日発表された4−6月期の国内総生産(GDP)が3四半期連続でマイナス成長となりました。今月5日の英金融政策委員会(MPC)で政策金利は0.5%に据え置いたものの、資産買い入れ枠を500億ポンド増額して、3,750億ポンドに拡大しています。1カ月前に量的緩和措置の拡大に動いたばかりで、次回(8月2日)は特に動きがないと見られますが、景気の先行き不透明感から、一段の金融緩和措置に動く可能性も出てきそうです。

 ECBの対応により、欧州債務危機への懸念が後退すれば、市場のリスク志向が高まり、円もドルも売られそうですが、ドル・円は大きく動かず、1ドル=77〜79円台でのレンジ相場が見込まれます。逆にECBへの失望感からリスク回避の動きとなれば、円が買われることとなりそうです。その場合、日銀と比べて、米国、英国、ユーロ圏の金融当局は相対的に緩和姿勢が前向きなため、ドル・円だけでなく、クロス円も全般に円高圧力がかかりやすい動きとなるでしょう。

【スペインやイタリアの利回りとユーロ・ドルは逆相関の動き】
 ECBによる欧州債務危機への対応策への期待感から、スペインやイタリアの利回りは急速に低下しつつあります。前週末の27日には10年物国債の利回りはスペインが6.7%台、イタリアは5.9%台まで低下してきました。今年に入ってからはスペインやイタリアの利回りとユーロ・ドルは逆相関の動きを見せています。すなわち、「債務危機への懸念増大=両国の利回りが上昇」となり、ユーロ・ドルは下げる傾向が見られました。

 グラフはスペインとイタリアの10年物国債の利回りとユーロ・ドルを表示したものです。利回りは左軸、ユーロ・ドルは右軸で表示しています。今年の5月ころより、「両国の利回り上昇=ユーロ・ドルの下落」という関係が顕著になっています。

 ちょっと見にくいですが、グラフの右端では両国の利回りが低下するとともに、ユーロ・ドルが上昇に転じています。欧州債務危機への対応策が進展して、両国の利回りが低下することとなれば、ユーロ・ドルは買い戻しの動きが加速して一段と上昇する可能性が高まりそうです。



2012年7月30日

(オーバルネクスト/佐藤 昌彦)

株式会社オーバルネクスト 情報企画グループ 主任研究員 佐藤 昌彦

担当
為替、日経、商品先物市場
信条
ファンダメンタルズによる解説だけでなく、データの統計的な分析や、サヤ取りなどにより、なるべくリスクを抑えて、投資家の方が優位性を持てるような情報の提供を心がけています。
経歴
1994年にゼネックス(現オーバルネクスト)入社。現在、主任研究員。為替・金融・コモディティのアナリストとしてマーケットの分析・記事の執筆作業に従事。現在は為替や日経の分析記事の執筆が中心。データの統計的な分析を得意としており、日経平均、ドル・円、ユーロ円など為替市場の日中足を用いた分析記事の執筆も担当。

株式会社オーバルネクスト

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